短編集「東北の神武たち」を読む
さすらい日乗さんの御教授で図書館から借りて、深沢七郎の著書をはじめて読んでみた。民話のような話もあれば、山本周五郎の「青べか物語」を思わせる終戦直後の貧しい人々の話、殺人犯人の心情を綴ったサスペンス調の話など、多彩な内容で話も数ページと短くスピーディーに読めてしまう面白い話ばかり。
深沢七郎の著書は「楢山節考
(木下恵介監督)(今村昌平監督)」「
笛吹川(木下恵介監督)」の原作になっているが、この「東北の神武(ずんむ)たち」は
今村昌平監督の「楢山節考」で一部使われていて、印象的だった。映画よりも原作のほうが、ひょうひょうとした可笑しさがあって明るい。
【収録作品】
「白笑い(うすらわらい)」 寒村に沢山の嫁入り道具と一緒に嫁入りしてきた女。しかし嫁入りした家の隣の家はかつて女が一度関係した男の家だった…。
「東北の神武(ずんむ)たち」 その寒村では長男しか嫁をとる事ができず、次男以下は神武(ずんむ)と呼ばれる野良仕事させられ人間扱いを受けなかった…。
今村昌平監督の「楢山節考」では左とん平が演じている。
「揺れる家」 隅田川、門前仲町あたりの運河に浮んだ船で暮す家族。主人公の少年庄吉の父は実は祖父で…。
「絢爛(けんらん)の椅子」 警察に捕まり取調中の父に面会を求めるが冷たくあしらわれた少年が次第に警察への対抗意識をつのらせ…。
「流転の記」 大阪の釜ヶ崎のドヤ界に住むどさ回りの芝居役者の家に世話になり、自分も芝居小屋の舞台に立つことになるが…。金にだらしない兄弟子夫婦が「青べか物語」の人々に重なる。
「枕経(まくらりょう)」 末期ガン患者に「朱色の塔」という独自の「治療」をする医者。病人の描写がすごい…。
「数の年齢」 自分の著書を読んで激怒した少年が殺人事件を起こし、作家自身も命を狙われたため、刑事たちと親類の家を点々とすることになるが…。サスペンス調かと思ったらなんかSFチック。
「ポルカ」 「日本風ポルカ」「支那風ポルカ」など14の「ポルカ」からなる短編。そのうちの「編曲風ポルカ」はまるでキリストの最後の晩餐みたい。小野小町の話がでてくる「ポルカ・クラシカ」も面白かった。